あとちのようなもの

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選書についての雑感

武雄市の選書リストに引き続き、今度は海老名市の選書について。

 

武雄市のリストは、見てみたはいいけど、見た時にざっとの感想で、定価ベースでも金額が合わないなぁとは思っていたんだけど、まさか、中古価格で買っていたとはさすがに思いもよらず。

ちなみに、公表された当時、約1900万円で約1万冊、ということで、定価なら平均単価約2000円なはずなのだけど、約700万円だったという話がでてきましたねぇ。

この話はまたのちほど。

 

さて、海老名市のほうです。

10月1日にリニューアル開館する予定で、新たに所蔵する資料がぞくぞくと購入されているはずですが。

ここで、問題化されました。

 

海老名市立ツタヤ図書館、驚愕の実態 - ナムラーのブログ - Yahoo!ブログ

眼鏡ふき・おろし金・シリコン鍋……武雄市に続き来月新装開館予定の海老名市立中央図書館でも「疑惑の選書」が発覚か | ガジェット通信

海老名市立図書館、選書やり直しへ 武雄市図書館問題が「飛び火」

 

購入予算約2100万円、購入冊数約8300冊で、平均単価約2500円。

その内訳では、工学・工業分野(おそらくNDC5分類)が6500冊で、そのなかでも料理の本が約4000冊との話。

 

さて、別に、賛成でも反対でもありません。

例によって、図書館の選書のセオリーや、ほかの図書館でならどう考えるか、という視点で見ていたいと思います。

 

まず、平均単価2500円について。

経験値というか、大体のところ、一般的な公共図書館だと、年間の資料購入では平均単価は1500円から1700円といったところです。レファレンスに力を入れ、なおかつその割には若干予算低めのところで、2000円を超えるところもあります。

逆に、近年では、資料費の低下により、基本的な資料を押さえつつも、利用者の満足度を下げないために冊数を確保するという判断をした結果、平均単価の低下がみられます。それぞれの資料がよくないというわけではないのですが、文庫や新書、また低価格の入門書などが購入の中心になってくるからです。

ちょっと内容レベルの高い本は、価格も高いのです。

そう考えると、2500円というのは、遡及選書では、所蔵したくても予算の関係で手を出せなかった資料を、これを機会にバンバン買えた、という夢のような話です。うらやましい。

が、今回の海老名では、そういう話じゃないんですよね、たぶん。

ちなみに、さきの武雄市の選書リストでは、ざっと見た感想ベースで平均単価1200円から1400円くらいかな?と思っていたのですが、きちんと資料を特定して定価を調べた方によると1400円くらいらしいですね。はて、定価ベースで500万円ほど計算が合いませんがどういうことでしょうか、と思っていたら、実際には中古で買ったので700万円でしたという話が出たので、1900万円との差額はどこへ消えたのかという疑問が残ります。装備代やMARC代も資料費に入れていいのであれば、本代1500万円でも総額1900万円はあり得るのですが。700万円だとどう頑張っても1900万円の理由が見つからぬ。

 

次、料理の本、4000冊について。

出版年鑑とか見ればわかりますが、料理の本って出版点数が多いので、買おうと思えばいくらでも買えるジャンルです。

で、さきの平均単価2500円と合わせると。

一般向けの料理本はというのは、いくらでも出ててもそんなに高くはなく、内容も似通っているので、いっぱい買うと同じような本ばかりになってしまいます。ところが、プロユースの専門的な料理本は、これまた単価が高し。なので、たとえば、食に関するビジネス支援に重点を置いて選書します、ということになると、平均単価2500円は理解できる金額となります。

が、これも海老名ではそういう話じゃないんだろうなぁ。。。

 

4000冊が多いかというと、これは悩ましい。

今回の購入資料のなかでは、たしかに突出しています。既存の所蔵資料も合わせることを考えると、多いような気がします。

ただ、蔵書の全体のなかでのバランスでもあり、重点分野であれば多めということもあるので、合わせて見てみないと、多い少ないの評価はできないと思います。

 

次。議会で話題になったという、本の内容。

タジン鍋だのは、さきのガジェット通信が検証してたISBNを付けられて書籍扱いになっているレシピ付き鍋で、たぶん、その通りではないかと。

で、これをどう考えるかと。

日本の図書館でも、本以外を貸出している図書館はあります。

たとえば、米粉のベーカリーマシンや塩分量計、おもちゃなど。どこがやってると書くと、それこそ、図書館でそんなものを貸すのはいかがなものか、と飛び火しそうなので書かないですが、ちょっとググればどこがというのはわかると思います。

あと、結構多いのが複製絵画の貸出し。武雄のお隣の伊万里市でもやってますね。

海外だと、クッキー型を貸出しているところも。

それぞれ、なぜそれらを貸出すのか、というのは、それぞれの図書館が考えて行っています。

海老名でもそのようなサービス展開を考えて、選ばれているのならいいのですが、おそらくそういうことではないのでしょうね。。。

とはいえ、そういうサービス展開を考えていたとしても、自分なら違う本を選んでいただろうなぁとは思います。タジン鍋のレシピ集など、レシピがおまけの本付き鍋じゃなくて、もっと内容の充実したものがありますから。鍋だって付録につけられる程度で、繰り返し不特定多数が使用するには強度に不安のあるものではなく、プロの使用に耐えるものを購入して、市民がお試しで使えるようにすれば、そこから新たなライフスタイルの提案になるのではないでしょうか。

 

また、議会で直接書名の挙がった、タトゥーの本。

いかがなものか、という話でしたが、決めつけるのはよくないなぁ。

というのも、このテーマの本の出版点数や、文化・風俗的な価値なんかを考えると、第一印象では、私が選書しても選書候補には残ります。むしろ予算があるのであれば置きたい、テーマ的には。次の段階で、タトゥーの本であればほかにもないのか、ほかにあるとしたらどちらのほうがより情報提供が行えるのか、といったことを考えます。類書がない場合、この本を入れるかどうかを、内容や作りから考えます。

若い女性の流行のチャラいタトゥーなどふさわしくない、とかいう視点でのよしあしは判断基準ではありません。というか、この発想だと、最近問題になった『絶歌』を入れる入れないという話と、根っこは一緒です。

とはいえ、この本がいかがなものかと話題に上ったという事実だけが伝えられており、なぜふさわしくないかの説明がないので、なんとも言い難いですが。

が、説明なしにふさわしくないと言っているのと、説明なしにふさわしいと言っているのは、実は同じことです。

1冊1冊、なぜそれを選んだのか、なぜそれを選ばなかったのか、を市民に説明できるようちゃんと理由を持って選書しろって、習ったなぁ(遠い目)。

 

心配なのは、教育長がチェックします、と言っていること。

もちろん、税金を使って町の財産になっていくのですから、しかるべきチェック機能は必要です。

ただ、内容や作り(実際、流行に便乗して低予算でやっつけでつくられた中身の薄い本もあります)からではなく、特定の分野について、偏見でふさわしくないと判断される危惧はあります。

公共図書館は広く情報ニーズに応えるという使命があります。いわゆる良書を提供する、ということではありません。

だから、チェックといっても、ふさわしいかどうかではなく、1冊1冊なぜそれが選ばれたのか説明して、納得を得る、というのが重要なのではないでしょうか。