選書リストを分析してみる
武雄市図書館の管理変更時の選書リストが公開されたので、しげしげとみてみる。
情報公開制度を使ってこのリストを取得してくれた方々に感謝。
[武雄市教育委員会] H27-07-13 武市教生第66号 初期蔵書入れ替え費で購入された資料一覧 -武雄問題文書館 - 資料室
このリストは、2013年のCCC指定管理開始時に、蔵書の入れ替え予算として購入された資料のリスト。
普通の図書館でも、大幅な予算が付いた(光交付金とか)とか、リニューアルオープン時に、これまでの蔵書に加えて大量に資料を増強することがある。このような状況だと、たいていはそれまでの蔵書から欠落している資料を選んで購入することになり、結果、高額図書が多かったりする。
高額図書が多くなる理由は、通常の選書は週次でリストアップされる新刊資料の中から随時選書することが多く、そうすると、高額なものやのちに評価されていくような基本資料はなかなか手が出しづらく、様子を見て購入としているうちに予算不足などで買えなくなったり、そうじゃなくてもそもそも予算不足で買いたくても買えなかったもの、を増強予算で購入する、というのが主な理由になってくる。
また、それまでの方針では購入を控えていた資料群を、方針変更により増強する、というパターンも考えられる。武雄の選書リストは、ざっと見こちらのパターンのような気がする。
以下、超ざっと見た感想。
それぞれの本について、追加の情報とかは調べてません。刊行年とか、値段とか、ページ数とか。
タイトルと出版社で、ざっとはどんな感じな本かというのはわかるので。ざっと見の感想としては、これで十分でしょう。本格的な検証はやりたい人でどうぞ。
・第一印象
基本図書や高額図書がほとんどなく、遡及選書としては、セオリーをはずしている、いわば選書できていない選書リスト。
あと、複本がちらちらと。非常に簡易なリストなので、年次や版表示が出ていないだけの可能性はあるけど。たぶん、そういったものではない、本当に複本になっていると見受けられる本が、それなりに目につく。人口規模を考えたら、2冊必要とか言う本もないわけではないけど、いまさら遡及してまで買う必要があるかな?というタイトルがかなり多い。
シリーズの一部だけを購入していることについては、元の蔵書にあったかどうかを調べてないので、特に言及はしない。いきなり1ページめに、『アップル 上』のみとかかなり目立つけど、もしかしたら、元は上下巻とも所蔵していたのに、上巻のみ何らかの理由で無くなってしまって、この機会に買いなおしたのかもしれない。
・その後の印象
分類ごとの冊数までは出していないけど、特定分類がやたら多い。で、多い分類を見ると、これ、購入を絞っている図書館もある分類。最初に気付いたのは149。同じような本が多かったり、内容的に薄かったり、出版点数が多かったりで、意図的に購入を絞っている分野だったりするのが、今回、大量に購入されている。もしかしたら、直営時代の図書館では、購入を絞っていたのかもしれなく、移行時に方針転換により増強対象になったのかも。ただし、直営時代がどうだったかは検証していない。
やたら多かったのは、149(自己啓発)、29(旅行ガイド)、3分類(ビジネス関係)、49(健康・医療)、59(料理・裁縫など)、6分類(ビジネス関係)あたり。これは、ライフスタイルやビジネス関係を重点的に収集すると、増加する分野。なので、こういった分野に力を入れる、「ビジネス支援」「健康・医療情報支援」「生活支援」などを標榜している図書館だと、ここが多くなってくるので、これはある意味、順当。
で、これらは新古書店の在庫としても多い分野。なので、在庫処分と見えてもおかしくはない。が、在庫処分とみると、あるはずの分野で、リストには少ない分野がある。それは、パソコン関係(007、54あたり。特に54はほとんどない)、社会評論(304あたり。軽めで話題書も多いので、ここら辺、出版点数が多い)、小説(9分類)など。これが少ないのは、ちょっとあれ?と思った。
以上、超ざっと見の感想。
これまでの経験からいうと、遡及で選書する場合、それまでの蔵書群のなかで、1.基本となる資料で買い洩らしたものを購入 2.定番資料の買い替え 3.分野ごとの冊数の偏りの是正 4.新規重点分野の増強 なんかを念頭に、この予算がなくなった後の通常選書でもバランスを崩さないかに考慮して、選書していくのだけど。お金あるときだけ高額図書とか買うと、のちのち更新とかできなくなってつらいので。
武雄が4を目的に、4以外の上記を考慮していないかどうかは、このリストだけではわからない。なぜならすでに所蔵している資料は、このリストには載ってこないからだ。何らかの理由で購入が必要になった資料だけがこのリストに載っている、ということは考慮したほうがよい。
以上が、選書のプロセスから見た、武雄リストの感想。
プロセス上からは、ほかの図書館でも、こういうリストになる可能性はある。
が、このリストで問題なのは。。。
「古い資料が多い」
図書館に古い資料があるのはいいんだけど、ただ、今回のような予算でわざわざ買うかというと疑問がある。
武雄の場合、本屋があり、新しい本は本屋で、古い本は図書館で、というのでこういう蔵書構築になる可能性はある。が、そしたら、ちょっと古くなった本は継続して購入してかなきゃならないけどね。ある意味、図書館vs.出版社で言われる、「図書館は新刊を貸出さずに、古い資料を保存せよ」を地でいってるわけだ。出版社的には理想の蔵書構成かもね。
もう一つの問題は、このリストとほぼ同時期に実施された除籍に、購入リストにある資料が入っているということ。汚破損資料などを現物弁償してもらった時に、除籍と所蔵が同じタイミング、ということはあるが、この場合、資料番号が変わる。資料番号を変えないやり方もあるけど、その場合には、たいていの場合、除籍リストにも受け入れリストにも載せない。
武雄の場合、資料番号が同じなので、普通に考えれば、受け入れ→除籍。で、今の所蔵状況を見ると、所蔵していないので、除籍された可能性が高い、ということ。
購入したばかりの資料を除籍、しかも、少なくないものが、というのはどういう状況なのだろうか。
とはいえ、よその図書館のまとまった選書リストなんて見る機会はそうそうないので、どんな本が選ばれているかを見るのは、勉強にはなる。
おまけ
図書館の展示
図書館で行っている、季節の本などを集めた、特集展示。
あれ、膨大な本がある図書館で、情報を手渡すためには欠かせない取り組みなのだけど。
正直、十数万冊からある図書館の本棚を前にして、圧倒されて、本が選べない、という経験はないだろうか。
読みたい本が決まっていればいい。知りたい情報が特定のテーマに集中していればいい。そうでなければ、図書館の本棚を眺めて、本を選ぶ、というのはなかなか難しいことではないだろうか。
そういう時に、特定の観点から集められた本を見るのが手っ取り早い。
新刊書のコーナー、返却されたばかりの本、特集コーナー。
季節の本が紹介されているのも、きっかけとしてはいい。
だけど、それよりも、その時々の時事にあった本を紹介してほしい。
そうすれば、社会の情勢に関心を持ち、自ら検証する、という流れを、情報を提供し知る権利を保障する図書館の役割を担保する一助になるのではないだろうか。
そんななか、面白い取り組みをしている図書館を見つけた。
生駒市図書館北分館で、利用者から特集のテーマを募集しているというのだ。
@キタ通信__北分館では、引き続き特集コーナーの企画を募集しています。「○○○に関する本」「こんな特集があれば面白そう!」といった感じでOKですので、どんどん館内の「特集企画BOX」へ!ご応募お待ちしています!」(^o^) pic.twitter.com/QfowYxDO3S
— 生駒市 図書館 (@Ikoma_library) 2015, 7月 9
これ、考えようによっては、市民が今知りたい情報をテーマとしてもらって、そのテーマに合わせて本をまとめて紹介する、ということができる。
ある意味、公開レファレンスだと思う。
レファレンステーマをもらって、本の集合として回答する。展示しきれないほどテーマが集まったり、展示したテーマをもとに、パスファインダーをつくってもいい。
市民の声をきっかけに、図書館の情報提供機能がより充実できるのではないだろうか。
第22回東京国際ブックフェアにみる電子図書館事情
第22回東京国際ブックフェアで、図書館向けの電子図書館サービスを展示していたのは、DNPと日本電子図書館サービスとメディアドゥかな。大きなところだと。とはいえ、日本電子図書館サービスはKADOKAWAのブースの片隅にちっさく、という感じだったけど。
日本の公共図書館での電子図書館サービスは、現在、30館ちょい。DNPだけで28館と言ってたので、30館は超えたかと。
内訳は、DNP28館、メディアドゥ2館(2015年7月開始予定)、NetLibrary3館、日本電子図書館サービス2館(2015年3月までの試験導入)、その他、という感じ。その他には、それぞれの館独自のサービス導入という感じで、パッケージ化されたものだと、上記4社、という感じ。
コンテンツも、1万点を超えてきて、少しずつ前進。DNPが1万6千点、メディアドゥが1万2千点。で、実際には、図書館で提供されるのは、多くて5千点くらい。7月導入予定の龍ケ崎市立がメディアドゥのサービスをフルで1万2千点提供するのは大したものかと。
まだまだ、電子書籍の貸し出しサービスについては議論があるけど、「もう一つの分館をつくるようなもの」「夜中に必要となった本が手に入る」という考え方はありかと。あと、「公共図書館で入れづらかった、書き込み式の資格試験書や、音が出る・動く資料を提供する」という考え方も。
コンテンツ数が増えて、紙の本でも図書館で入れていたものが電子書籍でも入れられるようになってくると、どちらで入れるか、アーカイブ機能はどうするのか、というような議論もますます深まっていくだろうけど、そこはどんどん議論して、よりよいサービスが提供できるようになっていくといいなぁ。
東京国際ブックフェアへ行ってきた
第22回東京国際フェアへ行ってきた。
ここのところ行ってなくて、数年ぶりだったけど。
毎度、出版社が「本が安いよ~」と売り出している光景が、衝撃的だったりするけど。まぁ、それを目当てに行くわけだけど。
今年、ちょっと気になったのは、什器関係の展示が少なかったかなぁ、ということ。一般公開日に行ったから、あんまり目立たなかったのかもしれないけど。あと、開催が終わっていた「コンテンツ東京」のほうに出展されていたのかもしれない。そっちは行ってないので未確認。
来年は、時期をずらして、しかも、一般向けになるとのことだから、さらに本を売る人・作る人向けの展示は少なくなるのではないだろうか。そっちは別のところで、という感じで。
本を買い求める人がすごくて、出版不況とは何だったのか、という気分にもなるけど、これは特殊例。ただ、見せ方、集め方で、売れる時は売れる、ということでもあるのではないだろうか。
あと、おっ、と思ったのが、日本図書館協会と東京都立中央図書館。日図協は、毎年出展はしているけど、見てる限りではブースには人を置いていなかったのが、今年はいたのでちょっとびっくり。都立は、こう言うと失礼かもだけど、「なんでここに出展してるの?」といういい意味での驚き。攻めてきてますなぁ。
電子図書館については、別稿で。
第22回 東京国際ブックフェア(TIBF2015) - 書店への営業、版権取引(著作権取引)、販売のための展示会です。 - 東京国際ブックフェア(TIBF)
図書館業務の理想と現実にびっくりしないための本
新年度。念願かなって図書館へ就職できた人も、異動で図書館配属になって「図書館とはなんぞや?」となっている人も、まずは図書館の概要を知ってほしい。勤めて長い人も、今一度見直しの機会を。
と、そんな感じの本を集めてみました。
日本を学ぶ外国人向けに、日本語でわかりやすく日本の図書館を説明するためにまとめられたもの。が、誰にとってもわかりやすくまとまっているため、図書館を説明する、理解する入門書にはピッタリ。
専門図書館が制作しているが、専門図書館のほか、公共図書館、大学図書館、学校図書館もカバーしている。
知っておきたい図書館の仕事―館長から各業務担当まですべての方にむけた図書館ガイドブック
- 作者: 図書館の仕事作成委員会
- 出版社/メーカー: エルアイユー
- 発売日: 2003/09
- メディア: 単行本
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知っておきたい大学図書館の仕事―現場に即した業務ガイドブック
- 作者: 大学図書館の仕事制作委員会
- 出版社/メーカー: エルアイユー
- 発売日: 2006/04
- メディア: 単行本
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図書館業務の概要全般を知る基本図書。刊行年は古いが、概要を知る上ではまだまだ使える。再販してほしい本。改訂版ならなお可。在庫なしのため、中古価格はとんでもないことになっているが、所蔵している図書館は多いので、図書館で読むことをお勧め。
用語やら概念やらを簡単に調べたければ、この1冊が簡易にまとまっている。身近に持っておきたい本。ほぼ毎年改訂されている。
学校図書館向けに、1冊にまとまったものを捜索中。
北海道立図書館 報告書『ゼロからはじめるデジタル化-小規模図書館でもできる-』
北海道立図書館が、報告書『ゼロからはじめるデジタル化-小規模図書館でもできる-』を公開している。
北海道立図書館[新着情報一覧] 報告書『ゼロからはじめるデジタル化-小規模図書館でもできる-』を発行しました
報告書『ゼロからはじめるデジタル化-小規模図書館でもできる-』
https://www.library.pref.hokkaido.jp/web/relation/hts/qulnh00000000ew3-att/vmlvna0000000lza.pdf
これは、平成25年度から26年度の資料デジタル化に関する調査研究事業をまとめたものである。
資料のデジタル化に対し、気を付けるべきことや先行事例などをコンパクトにまとめている。先行事例については、実際に使われた機材やソフトなど、ほかの図書館が実践しようとするときに参考となる情報も盛り込まれている。また、参考文献や参考URLもまとめられている。